「あさきゆめみし6」(大和和紀)

運命に翻弄される美人三姉妹

「あさきゆめみし6」(大和和紀)
 講談社漫画文庫

宇治で世を忍ぶ生き方をしていた
八の宮を、薫は敬服し、
彼のもとを度々訪問する。
八の宮は自らの亡き後、
二人の姫の後見を薫に請願する。
一方で彼は二人の娘に、
軽々しい結婚などせずに、
宇治で生涯を終えるよう
遺言する…。

第5巻で源氏が亡くなり、
第1部が完結した
「あさきゆめみし」ですが、
この第6巻からの
「第2部:宇治十帖編」のほうが
断然面白いです。
源氏亡き後は、先日取り上げたように、
源氏の孫・匂宮と、
源氏の子(実は柏木の子)・薫の、
次世代の若者たちが主役となります。
でもそれ以上に、
八の宮の娘・美人三姉妹が、
この「宇治十帖」の主人公といっても
いいのではないかと思うのです。

第6巻は、薫・匂宮と、
長女・大君・次女・中の君との
出会いから始まり、
それぞれの恋愛思慕の果てに
大君が病没、
そして異父妹・浮船の登場と続きます。

まず長女・大君です。
薫の一途な愛を、
死ぬまで頑なに拒み通します。
積極的に踏み出すことのできない
薫も薫なのですが、
結婚を不幸の始まりと思い込み、
薫の気持ちの一切を受け入れない
大君も大君です。
そして妹・中の君と匂宮が
結婚するのですが、
宇治まで足繁く通うことのできない
匂宮の姿に不安を感じ、
自らを苦しめていくのです。

父・八の宮の遺言ともいえる一言が
いけませんでした。
「甘い言葉にのせられて
うかうかとここを出てはならない」。
八の宮の真意は、
「男をしっかり吟味せよ、
薫の君のような男性は別として、
身分の低い男や品のない男に
引っかかってはいけない」というような
意味だったと推察できます。
いささか言葉足らずの感ありです。
大君はすっかり
「結婚してはいけない」としか
とらえられなかったのでしょう。
世間を知らずに育ってきた以上、
仕方のないことなのですが、
いかんせん視野が狭くなっています。

続いて次女・中の君です。
姉が思いあまって妹の彼女を、
夜這いにきた薫に差し出します。
姉でないことを知った薫は、
策を弄して中の君の部屋へ
匂宮を送り込むのです。
(薫は手をつけなかったものの)
中の君にしてみれば、
何も知らないところで
二度にわたって
男に差し出されていたのですから
たまったものではないでしょう。

しかし、その後、彼女は京に移り、
匂宮と優雅な生活を送ります。
匂宮と六の君の結婚に
心を痛めながらも、
したたかに生き抜いているのですから
立派です。
かつての玉鬘同様、
強さを身につけたのです。

そして最後に浮船です。
しかしここまでで大分紙面を
使ってしまいました。
浮船は次の第7巻では
主役に躍り出ていますので、
そこで取り上げることにします。

源氏物語は帖が進むにつれて、
明らかに登場する女性が
輝いてきています。
現代が女性の時代であるように、
源氏物語宇治十帖もまた
女性の時代なのでした。

(2020.12.2)

RENE RAUSCHENBERGERによるPixabayからの画像

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